madeingermany

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...... 2014年04月08日 の日記 ......
■ 「私の夫です」(藤尾、お延)   [ NO. 2014040801-1 ]
高松にどうやったら「貴方が好き」という気持ちが伝わるのか考えていました。高松は相手次第で労力、時間、好意を大放出出来る男でも、逆に自身が「好かれる」事は彼の中では想定外なのかなと思います。何十年も暗殺者集団の医事担当なら感覚も幾分麻痺していそうですし、高松の性格上「相手への自分の影響力」は好き嫌い抜きで計算できても、本当の自然な好意は常に埒外でしょう。自分からも相手からも。

(基本的に高松わがままなだしなあ。「(特定の誰かから)好かれる自分」がイメージ出来たとしても、その誰かの思いを感じながら動く事に疲れ、維持継続する気になれなくて、「部下で結構です」「家庭教師で十分です」と袖にしそう。後で勝手にすねて落ち込むだろうに。結局袖にした相手にすぐ慰められていそう。)


高松の心の中にはいつも故人であるルーザー様が大きく占めているので、ある程度までは致し方ないと思いますが、そのルーザー様でさえ、高松に「好意」を示してむなしくなった事がある気がします。キンちゃんが南国後に勉強や仕事に励んで、「お前のために頑張ったんだ」と言えば、高松は怒るかもしれません。「高松」は高松の中で埒外だから。重さの無い物にキンちゃんが捕らわれてはならないから。

夏コミか夏インテ新刊は、ルーザー様やキンちゃんがむなしくならない本にしたいです。高松を素直に喜ばせる方法があるとすれば、「お前のおかげで仕事がはかどった」と言ってあげる事くらいなんですが、「私は仕事しか出来ないから」とか高松がへこむシナリオもあるので七面倒くさい男です。あとは「ひたすら一緒にいる」とか。「お前が好きだ」と言うとキンちゃんでも揉めそうだから、一歩引いて「お前とずっと一緒にいたい」ならいけそう。



■漱石の明暗を読んでいます。

劇中の問題の一つは津田の経済苦ですが、津田は独身時代は金に困っていなかったはずです。お延を迎えてからお延の芝居見物や着物、贅沢品、身の丈に合わない暮らしで苦しくなったという事でしょうか。お延は津田と津田の父から金を搾り取っているのではなく、豊かな岡本家から嫁ぎ、「お金持ちの津田」と結婚したと思っているから堂々と高価な指輪もするし、お化粧にも凝ります。

・・・秀の持ってきた金、岡本の金、吉川夫人の金、みんなまとめて津田の父に今までの不義理の償いに送れば、事態は好転するかもしれませんが、お延も津田もお金があれば「お小遣い」にしてしまいます。津田の無精と見栄は仕方ないけれど、何も知らされないまま、無意味な贅沢と津田の不誠実さに追い詰められるお延があんまりです。

お延に所帯疲れさせないで、お嬢様のような生活をさせたまま、「愛を探す」物語にするのが漱石の狙いだったかもしれません。

■津田の浮気を探るお延の「津田は私の夫です」という訴えが悲痛です。虞美人草の藤尾も死ぬ間際、小野さんが別の女性と結婚する事を知った時、「小野さんは私の夫です」と言っていました。・・・・三四郎〜こころまでのヒロイン達は神秘的な雰囲気の方を重要視されているので、藤尾・お延の様な悲惨さが少ないです。

虞美人草の藤尾と小野さんが結婚したら、お延と津田みたいになるのかなと思いました。藤尾もお延も一途に相手を愛するタイプの女性ですが、同時に「この思いを受け止めて欲しい、自分を同じくらい愛して欲しい」とも願う女性なので、のらりくらりした小野さんや津田が夫では波風が耐えなそうです。


■なら藤尾は宗近と結婚すればよかったのかというと、そうも思えません。藤尾を「未来の妻」と思っていた宗近ですが、藤尾の死にいささかの悲しみも見せません。男だから女性の死に悲しみなど見せないのかもしれませんが、劇中で藤尾を直接的に殺したのは宗近君でした。宗近君が外交官になろうとしたのは、藤尾の父が外交官だったらしいから、藤尾の意に叶うかもという心があったのではと思うんですが違うんでしょうか。

(ちなみに劇中で藤尾の死を悲しむのは実母一人であり、しかも娘が死んで悲しいという思いから泣くのではなく、「これから困る」という我が身可愛さの涙だと描される。藤尾の扱いはそこまで酷い。)

藤尾の虚栄心のシンボルとしてガーネットのついた金時計を叩き割った宗近君は「藤尾に素直になって欲しい」と思ったのかもしれません。でも、三四郎の美禰子のリボン、三千代のパールの指輪、お延の石付きリング、これらは皆ただの装身具ではありません。彼女達は贈ってくれた男達の愛情を感じるために身につけています。彼岸過迄の千代子の「髪を結う」場面も同じ事でしょう。

藤尾も「未来の夫に妻たる自分を添えて贈る大事な金時計」だから肌身離さなかったわけで、宗近君に叩き割られて、文字通り夢も希望も恋も立場も失い、死にたいくらい辛かったでしょう。

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