■漱石の明暗を読んでいます。三四郎〜こころまでの作品群とは一風違いますし、道草とも別の雰囲気があります。読みごたえは虞美人草に近い気がします。虞美人草は藤尾が理由なく非難され、好きな人を知らない女性に奪われるショックで他界するという恐ろしいエンドですが、明暗はどうだったのでしょう。
もし藤尾と小野さんが結婚したら、性格の不一致その他で、お延・津田に近い悩み多き夫婦になりそうです。小野さんには婚約者同然の小夜子がいます。藤尾が小野さんと結婚しても、「夫が妻の藤尾の財産を、他人の小夜子に月々分け与える」というよく分からない事態が起きます。
藤尾は小野さんにプロポーズされる日を夢見ていたと思いますが、小野さんの目には藤尾の財産しか入っていない事実も悲惨です。藤尾は小野さんに財産や有力な両親がなくとも好きなのに。(関係ないが漱石作品のメインヒロインで未婚のままだったのは藤尾一人の様な気がする。・・・行人の重、彼岸過迄の千代子はその後幸せに結婚できたんだろうか。)
■ナイスミドルっぽさが増せばいいなと短髪高松を好んで描くのですが。「未熟な若者にからむ怪しい白衣の中年男性」になるので困っています。南国〜PAPUWA間の「高松と修行中」のキンちゃん妄想に激しく萌えますが、はたから見たらアカハラまがいの四十路かも。(盗撮・盗聴まがいの事しているので本当にまずい人だ。)
■去年の春に書いた本「ユニバーサル・ドクター」と、去年の夏に出した「お医者と紳士の本」の前半までのルーザー様は「なんだかよく分からないけど残忍で冷たい憎まれ者」でした。原作者らしい物語に何の必然性もない残忍性が如実に出ているキャラですし。
夏に出そうと思っている今回の本のネームを描きながら、マジックとキンちゃんが同じ項にいる事にゾッとしました。何故、父親を自死に至らしめた男を「伯父上」と呼んで側にいられるのかと眩暈がしました。ルーザー様が命を落とした経緯を高松の口から聞けば、そして高松の気持ちになってみれば、サービスもジャンもマジックもグンマもシンタローも、皆憎らしく妬ましいかもしれません。
■サビ ルーザー様の家族であり最愛の弟 ■ジャン ルーザー様を間接的とはいえ振り回す男 ■マジック ルーザー様が絶対の忠誠を誓う相手 ■グンマ ルーザー様の血縁にして「息子」 ■シンタロー どうしてかルーザー様の「息子」 (・・・高松ってルーザー様の何なのかマジで困る)
■高松なので、憎い相手には毒々しい言葉をさぞ叩きつけるでしょうが、自身の愛を注ぎ込んだキンちゃんは至っていい子です。みんなと仲良く出来る子です。キンちゃんが高松のえぐさを受け入れられないで、彼の事は無視して気持ちが身内のマジックやサビに傾いているとも言えなくないですが、どうも高松自身に何かあったと思われます。
初め自分は「高松はキンちゃん可愛さに自分の毒々しさを抑え込んだ」と南国後の高松を解釈しました。でも違うなと、マジックと家族同然で暮らすキンちゃんを見て思いました。高松のすね具合とひねくれの程度がミニマムになっているあたり、南国でルーザー様を失って以来荒れ放題だった高松の心を満たす何かがあったのだと思われます。キンちゃんへ親心を抱く前段が。
■恐らくですが、高松は「ルーザー様はマジックを恨んでいない」という事に思い当たったのかもしれません。どんなに目覚めたキンちゃんを高松が愛した所で、他人同士二人きりで生きていけるはずもないので、「キンタロー様に必要な人」を意識した所、グンマとシンタローへの見方が180度変わったのと同時に、「自分はマジックを許さねばならない」と思ったのでは。
マジックと妥協する気になった高松に、やっとルーザー様の死の意味を「悔しさ」以外の気持ちで考える余裕が出来たのかなと思います。グンマと二人きりだった時の様なやけっぱちな思いでは、キンちゃんを幸せにしてあげられない事に気がついた次のステップとして。
好きだとか愛しているだとか、こっちが望むような言葉を与えられた訳じゃないけど、自分もマジックやサビに負けないくらいルーザー様から愛されていた事を高松は知ったのかもしれません。そんな本を夏までに書きたいです。マジックの回想、独白という形になるかもしれないので、そもそも高松が信じる気になるのかが疑問ですが、可愛いキンちゃんのためなら、高松といえども世界が変わって見えるのかも。 |
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