madeingermany

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...... 2014年07月21日 の日記 ......
■ 谷崎   [ NO. 2014072101-1 ]
■谷崎源氏を読んでいます。読む前に当時の谷崎の秘書だった伊吹女史の回想録を読んでいるので、何となく谷崎の息吹が行間から聞こえて来そうです。谷崎が一番嬉しそうに書いていたのは、中期の蘆刈の様な茫洋としたエロスだった気がします。又は後期の瘋癲老人日記とか。源氏では谷崎のいい意味の変態性が希薄です。

谷崎というと源氏に代表される王朝文化、関西文化への傾倒が有名ですが、卍・蓼食う虫・細雪の様な関西を舞台にした傑作があっても、谷崎自身は関東の男なんだなと思います。優雅に女性との恋を楽しむより、何が何でも「落ち着く家庭」が欲しいのではと思います。足フェチとか陰影礼賛はあくまで谷崎のエッセンスというか。

■谷崎は源氏を出版する事で金に困らなくなったそうです。生家は困窮していたし、自身の若い頃も悩み多き青春だった谷崎なので、派手で贅沢な源氏を好きか嫌いかと言えば、好きじゃなかったかもしれないけど、源氏の古典的・経済的有用性は本気で分かっていた人だと思います。源氏と言えば華やかな王朝ファンタジーですが、谷崎自身は全く萌えていないと思われ、かえって読みやすいです。

病気をしても、幼女誘拐をしてもご機嫌。左遷されても、人妻に言い寄っても許され、養女は体のいい愛人候補、義母との不義の子からも猛烈に慕われる(なんで・・)源氏に共感できるタフさは自分にもありません。(※紫式部曰く、源氏は普段は生真面目に勤務し、色好みの遍歴は惟光か頭中将くらいしかしらないらしいです。余計悪い。)



■谷崎源氏は旧訳、新訳、新々訳、愛蔵版、新書版、文庫版と途方もなく種類があるので困っています。分かりやすい所だと、源氏と藤壺の「交流」が書かれていれば新しいものだそうで、自分が読んでいるのは新々訳です。

源氏と藤壺って、源氏が一方的に父帝の新しい奥さんに興味を出して、冷泉を生ませただけと思っていたんですが、そうでもなかったです。谷崎源氏は逐語訳らしいので、谷崎が加筆したのではないとすれば、源氏と藤壺の関係は冷泉が生まれてもまだ延々続いています。

源氏も若かったからと思って見ても、出家した藤壺とも延々関係が続いているとなれば、興醒めかもしれません。出家の意味がないと言うか、藤壺も源氏を憎からず思っている事が須磨あたりでもひしひしと伝わってきます。藤壺は「永遠の女性」ってものなのかもしれませんが、その割には高貴さ・懐かしさより生々しさが強いです。自分は六条御息所が好きです。


■源氏は長いから読者が途中で挫折すると言われますが、挫折の理由は長さと並んで、源氏と源氏の周囲についていけない事もありそうです。今、須磨まで読んだのですが朧月夜尚侍の件にしても、源氏が反省なんてしなそうですし、自分が田舎に行かされる事を嘆き、周囲の女性達と別れを惜しむくらいです。

源氏の周囲も、源氏と別れるのが辛いと嘆くだけで、「あんたがお兄さんのお妃に手を出したから、こんなアホな目にあたしたちも遭って」とは言いません。思っているかもしれませんが。・・・当時は誰が誰を扶養するかという法律もなかったので、源氏の「色好み」が褒めちぎられたり、恨まれたりする事はあっても、全面否定される事はありません。

朧月夜尚侍にせよ、彼女は朱雀帝の母の妹なので、甥と結婚したと言えます。源氏も彼女には姉の夫の子供なので甥の様なものです。六条御息所も桐壷帝の兄弟の未亡人なので、源氏には叔母です。ハプスブルク家か英国のビクトリア女王の頃の様ですが、あちらは「正妻が肉親で、浮気相手は全くの他人」の様な気がします。源氏の場合、正妻も身内・愛人も身内なので読んでてモヤモヤします。

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