 ■世間知らずなキンちゃんが、高松しか知らないまま若さをムダにするのは惜しいと、縁談を整えるグンマを妄想していました。
結局迷惑をかけたその女性と、彼女の身内に平身低頭で謝罪するのは高松の役目なんじゃないかなと思います。キンちゃんは若い美男子でお金持ちで優秀な理系だから、ちょっと変わっていても意外と許され、無自覚のまま彼女の両親に会い、結婚式の日取りまで決まったあたりで高松に話すのでしょう。ギャグタッチの少女漫画の様です。
結婚のなんたるや初めて高松に教えてもらい、彼女と彼女の身内、生まれてくるかもしれない新しい命まで、永遠に貴方は幸せにする義務があるのだと言われて、やっとキンちゃんはハッとするのかなと思います。
細雪で。いい感じの男性との縁談が持ち上がり、雪子も納得し、幸子達がいざ結納と日取りまで決めたら。その男性には深刻な関係を結んでいる婦人があって、男はその辺を誤魔化すために急に妻帯を思い立ったのだと分かり、結納がおじゃんになったというくだりがあったのを思い出しました。
細雪と言うか谷崎は、そういう実に下らない方面の話の時がより盛り上がる気がします。今の小説で、「男性が40を過ぎてそこそこの身分であって、それでも未婚だったら何か一癖あるのだ」なんて書けば、逆セクハラになりかねないんじゃないかと思います。最初の雪子の見合いの時の、地の文での述懐にそんなのがありました。
■穴が空くまで読んだ様な細雪ですが。世間で言われているほど、女性賛美の小説ではないのではと思います。出てくる女性達と言えば幸子達三姉妹、悦子、井谷母子くらいです。彼女達の言動が絶対的価値である事は疑いないにしても、それだけでは物語が動きません。
何人いたか知れない、雪子の見合い相手の男達こそ、細雪の主要人物なのではと思います。
・老母が病気だから見合い破棄されたサラリーマン ・子沢山の下市の銀行員 ・見るからに年を召した兵庫県庁職員 ・やもめの医学博士、雪子を自分から断る ・新鮮な鮎を持ってきてくれたお金持ち ・血統は貴族で外遊経験のあるお坊ちゃん ・妙子と板倉の恋愛事件で闇に葬られた誰か
外大勢いたらしいですが、降るほどあった縁談を片っ端から幸子達が潰してきたので、小説中に出て来るのはこのくらいです。幸子達の雪子の夫になる男性への最低ラインは以下の通りです。
■お金持ちである事 ■サラリーマンより代々の資産家等が望ましい ■家は結婚後に立派な家に引っ越す事 多分関西圏 ■家族や本人に遺伝的な病気がない事
■美男子なら尚いいが、明るくて好感のもてる風采 ■芸術や美術に一通りのたしなみがある事 ■学歴がほどほどに高く、雪子より聡明である事 ■女心を十二分に尊重できる繊細さがある事
■雪子がたまに蘆屋の姉宅に帰る事を快く許す事 ■夫が死んでも雪子が困らない程度の財産を有する事 ■酒乱はノーだが、家で明るく雪子と酒が飲める事 ■雪子のお嬢さん的な気質を十分理解する事
貞之助や辰雄、実にかれこれの条件が満たせるのか分かりませんが、辰雄は慎重さに優れ、貞之助も幸子に従順である事は満たしています。貞之助は余り前面に出てこないので性格等は切れ切れにしか分かりません。いくら雪子がヒロインだとしても、こうも上から目線ではまとまるものもまとまらないのではと思います。
雪子のモデルになったらしい、谷崎夫人の妹と言う女性があるそうです。彼女も結婚は遅めだったそうで、でも谷崎の干渉であまり夫婦でいられる時間が少なかったように聞きます。普通の女性を勝手に崇拝し、彼女が普通に幸せを求めるものなら、鬼の様に谷崎は怒ったのでしょうか。 |
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