オースティンの「高慢と偏見」を読んで思ったんですが。読了すると、ダーシーとエリザベス、ビングリーとジェインという、それぞれ幸福なカップルが生まれたというカタルシスを感じます。物語当初から相思相愛だったビングリーとジェインが結ばれる場面は、「ここまでよくジェインは耐えた」と思わせられます。
ダーシーとエリザベスの場合も、「あのつっけんどんでイラっとさせてばかりだったダーシーが、実はこんなに真剣な恋をしていた」という意外性を披露したり、勝ち気なエリザベスが女性らしい弱さを見せる場面もあって、充実しています。前半のメインはビングリーとジェイン、後半のメインがダーシーとエリザベスというところでしょうか。
これだけじゃないのが、オースティンだなと。
ウィッカムとリディアです。オースティン検定なるものに、「なぜウィッカムとリディアは駆け落ちしたのか?」という問いがあったそうですが。
答えは「借金がアホみたいに膨らんで町にいられなくなったウィッカムがスコットランド(何で又)に逃亡しようとした所、彼に夢中になっていたリディアが、彼を逃すまいとしてすがりついて、やむなくウィッカムはリディアというお荷物を抱えて逃げる事になった。しかしリディアはダーシーが恋するエリザベスの妹であり、ウィッカムはその縁故で借金をダーシーに払ってもらい、転職も出来た。」です。
(過去にダーシーの妹を、恐らく彼女の莫大な財産目当てで誘惑した前科があるウィッカムは、「ダーシーがエリザベスに恋している」事実を知っていたのだろうか?リディアがそんな内幕を知るはずはないし、ダーシーのエリザベスへの求愛は劇中でエリザベス本人しか知らないはず。もしウィッカムがダーシー家の財産を、なんらかの方法で一部でも奪おうとするならば、「ダーシーの恋」を利用しないはずがない。
ウィッカムは常にダーシーを避けていたので、ダーシーの振る舞いからエリザベスへの恋慕を知る事は出来ない。ダーシーのエリザベスへの気持ちを察していたのはビングリー姉妹だが、ウィッカムがそこまでビングリー姉妹と接点があったのかは分らない。
ビングリーは、ダーシーがエリザベスに恋している事に、恐らく気が付いていない。「ジェインの家族は下品」とジェインとの結婚を反対されたくらいだし。ダーシーがエリザベスと結婚したと聞けば、彼が一番驚きそうなもんだが。ビングリーがいかにダーシーに従順なのか、よく分るエピソード。
もしウィッカムがダーシーをゆする目的で、彼の恋する女性の妹に接近したとすれば、ウィッカムもただの自堕落な男じゃなくて、ある種の策士なんだけど。リディアが最高の金蔓になるとは想像もしていなかった様なので、多分違う。
結婚後、リディアはジェインとエリザベスのへそくり、つまりビングリーないしダーシーの金を何度も分けてもらっている上に、ウィッカムによりよい働き口を探してもらっているそうなので、これ以上の金づるはない。)
2人の姉達理性的なカップルに対し、そもそも、行きずりの士官達に色目を使い、ちやほやされる事が大好きだったリディアらしい顛末だなあと。ちなみにウィッカムと結婚した後は、主婦らしくしているそうです。彼女は浮気性という訳でもなく、きちんと「夫」を得られた後は、「妻」として人生を謳歌するタイプの、ある意味堅実な女性らしいです。
・・・ダーシーには自分の恋心を、抑えようとしていた向きがあります。恋愛に不向きな性格であること以上に、彼の慎重さなのかなと。「女性にふられる」恐怖はゼロでも、自分の莫大な財産と、高い家名を忘れてしまうくらい惹かれる女性の存在の恐怖はあったかもしれません。エリザベスへの一回目の求愛のシーンは、高慢で傲慢には違いなかっただろうけど、彼としては、エリザベスにひざまずいていた気分でしょう。だから、あんなにエリザベスに対して怒ったのかなと。 |
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