谷崎の「武州公秘話」を読みました。谷崎らしい一作なんですが、煽るかの様な文が続く割に薄味の様な気がします。いつもの谷崎の様に古典風の世界で独自の欲望を描き出すテンションがあるのですが、戦国時代という時代性がそうなのか、ある意味とんでもない場面の連続であっても読み終えると薄味に思えます。谷崎の異様さが光る時って、普通のサラリーマン世帯の夫婦の秘密とか暴き出す時かもしれません。今読んでいるのは「鍵」です。谷崎は劇中での文章のテンションの波が激しい人だと思いますが、「鍵」は最初から飛ばしているなと思いました。
谷崎の書く「異様な人」と「普通の人」の落差って相変わらずすごいです。「春琴抄」で、子供を何人も作って一緒に寝起きしているのに、夫婦らしくあろうとしない春琴と佐助に対し、周囲の呆れ具合がツボでした。「春琴抄」は驕慢な美女と弱い男の話の様に見せかけて、佐助が春琴を自分好みの女性たれと誘導している話に見えてなりません。わざとらしい師弟関係を誇示するような妙なお墓でなくて、普通に夫婦として一緒の墓に入る方が、晩年の春琴の思いに近かったのではと思います。
全然関係ない妄想ですが、南国でルザ様は激戦区に行く前、私的文書は写真の類まで一切処分したような気がします。兄弟で映した写真等はマジックに預けてしまうとしても、高松についての物は公式な物以外は全部廃棄したんじゃないかと思います。恐らくマジックと意見の相違があっての自死だったと思うので、高松が巻き込まれないために、自分は高松と私的には何の関係もなかったとしておくには、そうした方がいいんじゃないかなと。兄弟の例にもれず、抱き枕とか残されたら困るなあと。
(そういうルザ様の努力の甲斐もなく「ルーザーの息子」を預かる高松。マジック的には仕事してくれれば逆賊の縁者でも何でもいいらしい。)
後にキンちゃんがルザ様の遺品に出会う時、兄弟について以外は公式文書しかなくてさぞ当惑するでしょうが。でも長く側に置いていた高松についてのものが掃除したかの如く「ない」という事が雄弁に「あった」事の証明にこの場合はなるんじゃないかと思います。キンちゃんは物欲があんまりないイメージなので、父の態度からの学習もあって、「目の前に高松がいるのなら、思いのやり取りは物に頼らなくていい」と思うようになるのでは。科学者は「真実に恋する者」と言われるそうなので、ぬいぐるみや抱き枕を媒介にして高松を愛する事は父子とも好まなそうです。
あと高松なので個人的に贈り物とかされるより、ルザ様やキンちゃんがいい研究論文等を発表してくれる方を喜びそうなので、異様に2人とも仕事がはかどっていそう。
全部妄想です。
■生きていたルザ様、幼いキンちゃん、高松の3人が落ち着いて暮らせる状態って、「御主人様とお坊ちゃまと使用人」の関係かもしれません。他に何があるんだという突っ込みを何度もしましたが、源氏の様に「母親の身分が低かったために父帝からの寵愛を受け、多彩な才能を持ち、麗しい容姿であっても臣下にされる」ってのも、高松の本懐じゃないだろうなと。高松はルザ様にもキンちゃんにも、青の一族としての栄誉を十分味わって欲しいでしょう。
■ルザ様はまだ若いので高松に「お前とキンタローがいれば僕は何も要らない」とか言いそうなんですが。現実主義者でもある高松にしてみれば、そんな不安定なサマは許さないでしょう。
高松が2人の高い身分に合わせて使用人として振る舞う事はあれど、高松の身の上にルザ様とキンちゃんが合わせようとするのは、高松好まなそうかなと(でも3人の生活の趣味嗜好、リズム等は高松一色の様な気が)。一族の公務を仮に「高松を一族の一員として認めさせるまで僕とキンタローは参加しない」とボイコットしようものなら、高松は烈火の如く怒るでしょう。その手の心配なら無用で、本編でも高松は少なくともマジック・ハレ・サビからは一族に準じた扱いだったと思います。
ルザ様が若いのにガンマ団の重要なポストにいるのは高い実力もあるでしょうが最大の理由は一族だからであって、キンちゃんも特殊な条件と身体で生まれた以上、どんな事があってもガンマ団&青の一族にしがみ付く必要があります。
■「僕は兄さんと違って次男なんだから、キンタローにも兄さんの息子と自分は違うんだと思ってもらう」とルザ様が言うなら、高松も賛成でしょう。高貴な彼等のシンボル的な存在なら既にマジック、グンマがいますし、補佐的・実務的な立場に回った方が何かと被害も少ないかもしれません。(ルザ様の弟達、サビとハレは「俺こそ青の一族の顔」という態度なんだがそこは突っ込まない。) |
|