谷崎の「鍵」を読んでみました。最初から飛ばしているなと思っていましたが、調べてみるとやはり飛ばし過ぎて反響が大き過ぎ、方向を修正したそうです。なら連載が許される誌面で書けばいいのにと思いますが、原稿料の都合でしょうか。谷崎なので最初からまとめ方を決めないで書くから少々の変更では動じないはずなのですが、「鍵」にかけては困った事になった様です。
「高齢の夫が若い妻に息子の様な年齢の男をけしかけてギリギリの所で自分が興奮して楽しむ」、「夫に心の面では兎も角身体的には期待していない若い妻が、夫の悪ふざけに乗じて夫を殺す」、「許嫁を持った娘が母とふざけている彼を彼が望む形で自分のものにする悪だくみ」の話なので、少しでも叙述の内容が欠けていると真相が分りません。
書かれなかった相当の部分があって、「鍵」を混乱させているらしいです。夫の日記、妻の日記が交差して話が進むので、結局誰の記述が本当なのか分からないんです。「妻の貞操を試す夫」の話なら古今東西珍しくありませんが、「鍵」の場合夫が求めているのは妻の貞操の証明ではありません。夫にあるのは、そういうきわどいシチュエーションに自分を置いて心身を奮い立たせたいという願望です。気の毒に。
死んでいった夫と同じ願望を娘の許嫁の木村も持っているようで、娘と木村が結婚した後は、新しく、娘・娘の夫・娘の母で悪ふざけを再開するそうです。「鍵」は「瘋癲老人日記」と違ってメインの人物が死去するので落ち着いた終わり方なのかなと思って若干期待しましたが、いつもの谷崎でした。全部悪ふざけで終わればいいのに、恐らく妻の脱線を娘から明らかにされて、消える様に死んでいった夫が何とも。
それにしても谷崎の小説には医者がよく出て来ます。主人公達が寝込んだり体を痛めたりする事が、作者の加齢とともに増えてきたからでしょう。奇妙な主人公達が出入りする谷崎の小説において、同じくらいの頻度で登場する医師達の信頼は厚く、同じ劇中の登場人物でありながら冷静に患者等を診察、治療しては去っていきます。
なんで「鍵」を読もうと思ったか言うと、今原稿中の作品の登場人物も「日記」がアイコンだった時期のあるキャラだからです。決め台詞が「日記につけといてやる〜」でしたから、グンマは。グンマというキャラ自体立場も性格も不安定なので、日記がグンマのアイコンだった時期もごくわずかですけれど。
■高松はグンマの日記を読んでいたかという疑問があるが、多忙な高松がグンマに小中学生がクラスで書く様な「連絡帳」的な意味でノートに記入させて、高松が終業後に目を通し、内容に高松の対応すべき点があれば応じるという事は考えられる。 ■グンマなので高松に対するプライバシーをどう考えていたのか謎だが、公私全般高松に頼り過ぎていて、結局高松と同じくらい働き者のキンちゃんを得るまで、日記(≒連絡帳)を読ませていたと思う。 ■高松もキンちゃんとの出会いと同時に、グンマへの関心が薄れ出したので、日記だの連絡帳だのの習慣は自然消滅していったのでは。キンちゃんは仕事に関する業務日誌はつけるだろうけど、私事は父に習って秘密主義なのでは。
というか南国後療養中の高松の枕元で、あれこれ「お話」している高松とキンちゃんを自分は想像している。高松なので細大漏らさず聞くし、キンちゃんの事を可能な限り考えていそう。隠居中も同様。 ■高松相手なら盗聴器越しのやり取りでも気にしないキンちゃんはグンマより重症だけど、竹淵的には高松〜キンタロー間ならそれでいいと思う。高松もグンマには日記だの連絡帳だのを通じての一方的な指示に終わったと思うけど、キンちゃん相手なら違うと思う。
11日間休日なしで働くとなると、癒しが欲しくなります。昔は気晴らしに洋菓子店に寄るのが楽しみで、好物のイチゴミルフィーユやガトーショコラをお腹に詰め込んでいましたが過多になりつつあるので、同じくらい甘いものを脳に詰め込んでみようと思います。以下は全部妄想です。本編のキャラとは一切関係ありません。
■生前のルザ様の主なお仕事はマジックの補佐、一族の公務もあっただろうけど、今の高松の様な健康診断の仕事もあったはず。高松の場合は反論できる可能性のある健康診断だけど、ルザ様の場合皆黙々と受けていそう。身長測定やレントゲン検査の時にうつむいていようものなら、「顔を上げて」と脅されそう。(ルザ様に脅迫している自覚はないと思う。) ■憂鬱な健診でもあり、多忙な団員はなかなか健診に来ない。ルザ様は仕事の効率を上げるためと、自分が退屈しない様に健診の際に工夫すると思う。
■高松にナースコスをさせる。絵に描いた様な「ナース」は実在の病院にはまずいないし、最近は男女兼用っぽい動きやすそうな看護師用の白衣やスラックスがあるけど、ルザ様のチョイスなので「ああ看護師だな」という衣装。ナイチンゲールの様なゴシックタイプでもなく、キャップ、膝丈ワンピースとナースサンダル(中学生くらいの高松なのでまだサイズはありそうだしなくても探し出すルザ様。) ■健診の手伝いを命じられた高松がその制服を与えられて、ニュアンスが分からずルザ様に問うが、逆に「タイツは白がいいかい、それとも肌色がいいかい」と聞かれて諦める。忠誠心と恋心が、羞恥心と倫理観を凌駕したよくない例。
■結果、かつてない程スケジュール通りに団員が医務室に集まって健診が滞りなく進む。ルザ様も退屈しない。
血圧が上がり出す団員や、視線の方向が自分と同じである団員がいる事に気が付くルザ様。プロの医療従事者である高松なので、ナースコスと言えどもコスプレっぽいわざとらしさが少なく、キビキビとした機能美溢れる動きに満ちた、魅力的な看護師さん。(もともと高松は体の運びが洗練されている方なので、膝丈ワンピースでもいかにも女装めいた、いかつさを感じさせない。)
自分の考えの浅薄さに気が付いたルザ様。急遽高松に普段の白衣に着替えて来る様に指示を出す。その後も何を期待してか医務室がしばらく繁盛するが、この件以降、父親の様な目で高松を余計な視線やイタズラ、干渉から遠ざけるルザ様。 |
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