谷崎も漱石も好きでよく読むのですが、谷崎は漱石の「それから」を高く評価し、次作の「門」には辛口です。「それから」で嵐の様な恋をした三千代と代助のその後が「門」であるのなら、あんな淡々とした生活おかしいというのが辛口の理由だそうです。自分とすると三部作の「三四郎」で、若く溌剌とした雰囲気を漂わせてた三四郎が、親の仕送りで贅沢をする代助になった事の方が衝撃で、かえって「門」のコツコツと生きている宗助の方に好感を持っています。
「それから」を熱いラブストーリーだと思って読んで、続いて「門」を読むと確かにがっかりするかもしれません。漱石が書くものにそんなメロドラマを期待して読んでいないので自分はがっかりしませんが、谷崎は「知り合いの奥さん」他手に入れてはならないはずの女性を多数愛してきた男なので、姦通してまで得た女性と宗助の現状に物足りなさがあったのでしょう。
そもそも漱石と谷崎では、姦通の意味が違う気がします。広い意味で姦通と言うなら、漱石の「こころ」では先生は死後というより生前より徐々に自分の妻を「私」に譲っているらしいですし、「行人」では一郎があからさまに弟の二郎に自分の妻を勧めている様な雰囲気があります。「明暗」も新婚の夫が、結婚前に好きだった女性(今は既婚)に会いに行く場面があります。それでよかったのか津田。
谷崎の小説でも、「鍵」で自分の妻が浮気する事を喜んでいる夫がいますし、漱石も谷崎も、一組のカップルをじっくり書くというより、いろいろ交えて書く事があるのは同じです。小説なので自然そうなります。
谷崎の小説では、自分が興奮して満足するためにわざと他人の妻や、他人が親しくしている女性に近づいている気がします。その女性の事が好きだったとも言えるんでしょうが、谷崎の場合、姦通というシチュエーションが元来好きなんじゃないなとゲスの勘繰りをしてしまいます。
漱石の場合もっとおしとやかというか、おしとやかな小説達ながら、「門」で御米の体調が悪い時に宗助曰く、「子供でも出来たのか」って、流石夫婦喧嘩が絶えないながら大勢の子供を残した漱石の書いた小説だなと思いました。谷崎の場合シチュエーション命で、夫婦関係だのなんだのに切り込んでくる描写が多いですが、漱石の場合生々しい事は「あって当然」と言っている気がします。「だから?」みたいな感じです。谷崎の書くものは鷹揚に見えて、時々せせこましく見える時があります。
以下は独断と偏見の南国&PAPUWA雑感です。
■ルザ様が生きていたら、キンちゃんには弟がいたと思う。高松が楽しそうに小さいキンタロー坊っちゃんのお世話をしながら、「キンタロー様が大人になられたら、私などキンタロー様にいらなくなってしまうでしょうから、寂しいですね」とか言うもんだから、ルザ様が2人目とか言い出すと思う。高松は意見を求められる格好になるけど、「貴方に任せます」としか言えないわけで。言葉ではどう言おうとも人並みに喜んでしまう高松。ルザ様の御決断や如何に。
■いくら妄想でもオリジナルキャラまで出せないので、ルザ様が「2人目」を言い出した時点で妄想は終わる。本編でもグンマが成人するまで過保護を貫いても「トップクラスの医師」であり続けた高松のキャリアってどうなっているんだろう。本業は医師、副業でガンマ団士官学校の教員、趣味で生物学だと思っているんだけど、長めに子供の面倒見ても積み上がるキャリアって、高松は体が2つあるのか。
■「1人目」のキンちゃんの出生の時はまだ10代だったし色々夢中だったけど、ふと気が付くと「ルーザー様の側にいる」という密かな夢が叶っていた高松。「恩人への忠義故の子守」と言うのはあくまで自称で、傍から見れば3人家族以外の何物でもない。自分のキャリアか、ルーザー様との時間かと聞かれれば後者を取るだろう高松だけど、高松のキャリアについて十分な配慮をしていそうなルザ様、意外に一途。
・・・妄想でもなんでもなく、ルザ様が4兄弟という事は、ライオンパパは生前相当の頻度で子供を設けていた事になります。ファンタジーな方法で子供を授かっている青の一族でも、不成功に終わる場合もあるでしょうから、遠征に行っていようが多忙だろうがそういう事だったのでしょう。
南国&PAPUWAって、本編で青の一族の細部について触れずに置いた方がよかったなと思います。コタローとマジックが語り合う場面だって、わざわざそんな背景を持ち出さなくても父子の会話が出来たでしょうに。劇中に出ていなくとも、「マジックには奥さんがいるんだろうなあ」とか思わせておいてくれてよかったんです。
そういう不可解な設定がないと、高松というさらにファンタジーな男のつけ入る隙がないという気まずさ。妄想していても、男性である高松が好きな人は男の人で、高松はその人の子供なら目に入れても痛くないくらい可愛いのだという点が、妄想でなくて劇中の事実である事に未だに驚きが隠せません。 |
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