■細雪の疑問の一つなのですが。末娘の妙子が独立を目指し、洋行ないし洋品店の開店を計画する場面があります。ハイカラな妙子の真骨頂かと思いきや、洋行にせよ洋品店にせよ、資金として目されたのは蒔岡家の財産です。雪子の生活費やお見合い、結婚に関してのお金は絞り出してでも用意する蒔岡家なので、妙子にも何らかの予算があったのかもしれません。
立派な婚礼など出来なくていいから、その分のお金を今すぐ分けてくれと妙子は姉達に願い出ます。板倉の急死でそんな話も立ち消えになりますが、やはり雪子が指摘していたように、板倉が妙子について関心を持ったのは、蒔岡家の子女であるブランド、ブランドである証拠としての金高だったのかなと思います。
もし妙子にまとまったお金を渡したら、板倉に横取りされると雪子は言います。雪子はひどいと最初読んだ時思いましたが、確かに、洋行と洋品店の計画の根っこあるのは妙子の馬力や能力ではなく、蒔岡家のこいさんならではの資産力への板倉の食指だったのかもしれません。
谷崎の小説には細雪なら井谷の様に、女性経営者的な人が時々出てきます。その女性達は最初からタフで、確固とした経営者である事が多いです。妙子の様に、あくまで富裕なお嬢さんであるはずの女性に最初からチャンスはなかったのかもしれません。
■南国のもやっとする事の一つに、ルーザー様の葬儀があるのですが。遺体は完全なまま青の秘石が預かっていたとされるから、遺族は彼の遺体を見ていないだろうという事になります。
希望的に言えば、兄との決裂を知ったルーザー様が、戦地に行くと言ってあえて身をくらまし、息子と高松をいつかどこかに呼び寄せるつもりだったのだろうかと考えられますが、そうなると今度はキンちゃんと高松に累が及び、身をくらました意味がなくなります。
ルーザー様のご気性として失踪はないと思うので、高松はあえて彼を探さなかったのかもしれません。ガンマ団が戦地で歓迎されるはずがないですし、ライオンパパの息子、マジックの弟であるルーザー様が、敵地で負傷し身を守れなくなった場合、どんな目に合うのか目に浮かぶだけに、高松は絶望したのかも。
■ルーザー様のご気性について考えていました。あのハレが怯える男なので、家族でも本気で怖くなる所があるようです。ルーザー様がほとんど唯一慕うマジックですら、こちらの言う事を聞かないとか、ハレが感じたのと同じような恐怖を一度ならずルーザー様から感じた様です。
ハレの場合はルーザー様なりの「面倒を見る」行為だったのかもしれないし、マジックに対しては敬意が強すぎると言うか、ライオンパパが生きていた頃から感じてた身を取り巻く恐怖に対抗すべく、いわゆる戦闘マシン化した部分があるのかなと思います。
言わば素直。お世辞を言ったり、誤魔化したりしない人だったのだろうなと思います。科学者としても真面目だったと思いますが、学問への誠意と、侵略者である兄への敬意はいつか矛盾するので、サビやジャンの事が無くても、いつか決定的な日が来たのかなと思います。
■以下はルザ高とキンちゃんについての妄想です。
自分はルーザー様のご気性を、南国で自身を息子に殺させたルーザー様のお気持ちから推測しています。自身を何故息子に殺させたかというと、恐らくキンちゃんに自分と同じ道を歩ませたくないからでしょう。
ルーザー様が我欲で行動した事は余り無いにせよ、人を傷つける事に抵抗が薄かった事は挙げられます。先代総帥の次男、現任総帥の弟として、戦闘マシンである事は不可欠かもしれないけど、恨みを買ったり、自分の思う様に事が進まないかもしれなくなるおそれを回避するには、嘘でもいいから明るさや優しさを周囲に示さねばなりません。
キンちゃんには、優しい子になって欲しかったのかなと思います。高松を傷つけられて怒る息子の姿に、何となしにルーザー様は希望を感じたかもしれません。
パラレルでもルザ高とキンちゃんを思うに。ルーザー様は幼いキンちゃんに、スパルタ式で訓練を施すと思いきや、高松がそうはさせない気がします。年齢の割に過重な勉学、技能、技術、心構え等の習得をキンちゃんは施されると思いますが、吸収のいいキンちゃんだから出来ると思われる部分を除けば、高松はキンちゃんに無理をさせないでしょう。
乳幼児からキンちゃんを高松がまめまめしく世話するとなると、ルーザー様が勉強や訓練を教えようとした頃には、すっかり高松の考え方や、彼の自分への希望をキンちゃんは分かっていそうです。根性の悪さは彼の個性だとして、働く喜びとか、健康の有難さとか、知らず知らずキンちゃんは知るのかもしれません。
そして、一途に思い詰めるより、皆で一緒に何かする事の方を、ルーザー様と高松はキンちゃんに学んでほしいかもしれません。総帥一族の子供としての振る舞いより、人としてどう振る舞うべきなのかを学んでほしいのかも。 |
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