■若い頃、学歴にこだわる大人がよく分からなかったです。田舎住まいなので周囲に学校が少なく、学歴というものが分かりにくかったせいもあります。大事なのは出身校ではない、その学校で何を学んだかだとか思ってました。
卒業後、十数年手探りで生きてみて思ったのは。若い思いを完全燃焼させてくれた学校には感謝すれど、学んだ内容が直に役に立つはずはなく、あえていうならあの時は楽しかったという、ほのかな思い出をくれた事が大事なのかなと。
母校、出身校と言えど、在学時からキャンパスの増加、学舎の新設、姉妹校の誕生と変化の多い学校でした。毎年大勢の人が入って来て、かつ出ていくのだから、その波に乗って行くので精一杯で、在学中本当に楽しいと思ったのは、受講中くらいだったかもしれません。面白い講義が多かったです。
ちょっと思い出す事があって母校について調べていたら、古すぎて欲しかった情報が残っていなかったです。学校は若い人のものであって、教育関係の仕事でもしていなければ近寄ってはならないなあと思いました。どこまでも思い出の中のモニュメントみたいなので。
■谷崎源氏は逐語訳だそうです。源氏の原文は高校の古文の授業でやった冒頭と、若紫の一部しか分からないのですが、確かに分量と言い描写と言い、谷崎は盛っている感じがしなかったです。
谷崎らしいと言うか、谷崎が盛ろうと思えばどれだけでも盛っただろうに、非常に綺麗に訳してあります。こちらに想像力の舵を与えくれた様に思えて、完読してよかったと思いました。
源氏って、泣き顔とベッドシーンで要約されてしまう気がするので、想像力を働かせてくれる余地を残されると有難いです。触れやすいという源氏、浅き夢みしは若紫が源氏と関係を持つ場面を読んで、それ以上読んでいません。
若紫が可愛かったから心苦しかったのと、この先源氏物語は源氏の強姦まがいの日々しかないのではと予感したせいでしょうか。序盤の恋愛相手である藤壺も、幼い日に慕った云々漫画で描いてあるのに、別の巻ではまた違う女性に目移りしているのが、原文通りだとしても受け入れられなかった様です。
源氏の正当な相手と言えば、父親がしっかりしている葵上、明石上、女三宮くらいだと思うので、他は皆アフターケアがあったとしても本来褒められるものではないのかなと思います。それでも源氏物語が魅力的なのは、華やかな性生活の描写の基調になっている冷徹な何かがあるからです。
紫式部が源氏の色狂いの生活に賛成していたとは思い得ません。何かの考察で、紫式部が書きたかったのは、仏にすがりたくなるほど苦しむ女性達であり、藤壺は出家しても関係を続けさせられ、紫上は源氏に遮られて出家できず、女三宮は薫を残して出家、浮舟に至ってやっと完全な救いが得られたと読み、納得しました。紫式部が書きたかったのは派手な情事でなく、その果てにある嫌なものだったのではと思いました。
源氏が紫の上に先立たれた後、今までの自分の犯罪めいた日々を後悔しながら亡くなったらしい雲隠という帖を名前だけ残した紫式部は、やはり冷徹な書き手だったのではと思います。 |
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