■卍と言うと過激さで有名ですが、光子に翻弄され、落ちるところまで落ちる柿崎氏がメインだったのかなと思いました。同性の園子をもうっとりさせる光子、妻の園子に紹介されて夫は光子に会う、という方がメインだったとするなら、園子の部外者ぶりに納得がいきます。
まさか生真面目な柿崎氏が光子にのめり込むとは想定外な訳で、妻の友人としてでもないと、氏と光子の接点はなかったでしょう。谷崎が女性と知り合う時って、いつもそんな感じだったなと思い出しました。複数の女性と一度に付き合うのが好きと言うか、細雪も清楚ながら複数の女性を一度に愛でるという点では、谷崎趣味だったと思います。
■春にして君を離れを読んだので。
高松はグンマを自分勝手に翻弄した後で、グンマに詫びたのかなと思いました。24年間分の謝罪なんてされても困りますし、謝罪されたからって何がどうなるものではないのでは。マジックに謝ってもらえなかったコタに至っては、かえって彼は親子関係の限界を早々知ったのかもしれません。
■クリスティの春にして君を離れを読みました。裕福な婦人が家族や自分の事を回想する話だと聞いていました。その通りで、ヒロインの両親、学友、夫、子供達とその配偶者との思い出がランダムに出て来ました。
(自分は旅行先だと、何もかも忘れようとする方です。自分の事も、周囲の事も、考えまくって疲労している事が多いので、房総だの大阪だの伊豆だの行って、自分じゃない時間を求めます。南国後の療養中の高松が、何となしにキンちゃんのお見舞いを待つ気分でしょうか。
一瞬、ただのトラベラー気分になって、女王の重圧を忘れたかのように駅に立つメーテルの様なたたずまいをしている様な錯覚に陥ります。そんな事は無くスペインで一週間過ごしたら、最後の日はいつもの竹淵の気分でした。)
春にして君を離れのジョーンの自分勝手さへのコメントは多々されてきたと思うので、私が語る事は残っていない気がします。
ただ思うのは、仮にジョーンがロドニーに謝ったとしての場合です。ロドニーは許すでしょう。君も精一杯家族を愛してくれたんだからねとか言って。ジョーンにそんな事を言ったら、なけなしの自省など消し飛びます。なんだやっぱり私は夫から愛され、理解されていると。
子供達は親を尊敬しない駄目な子、夫は優柔不断で頼もしい妻がいないと不幸になる男と、またまたジェーンの思い込みが再発します。ロドニーがたびたび自省を仕向けても駄目だったでしょうし、たった一回、砂漠で寂しくなって愛情不足を感じただけの事なので、謝る・許されるが済んでしまえば、更にジェーンは図太くなります。
ならばジェーンの謝罪に伴い、ロドニーがバグダッドから来た手紙を見せる、故レスリーへの敬愛を語る、弁護士を辞めて農場を買うなどすればどうなるか。
ジェーンは誠実に罪を詫びている妻へ、どうしてそんなひどい仕打ちが出来るのかと、泣いて怒りだすでしょう。ロドニーへ謝って損した、私もひどかったけど、真面目に謝っている私を尊重していないと怒り、手が付けられなくなると思います。
ロドニーが離婚を言い出さないのも、どうせ離婚を口にすれば妻から終わりのない罵詈雑言が飛び出すだけだと思うからでしょう。ジェーンを黙らせる方法は、自分はとても幸せだと思いこませておくしかないのです。ロドニーが本当にジェーンをどうにかしたいと思っても方法がないのです。
・ジェーンの自分勝手さを指摘し、考え直してもらう ・ジェーンが謝罪して来たら許す ・ジェーンが謝罪して来ても許さない
どの方法を取っても、ジェーンは怒り狂うでしょう。彼女の一瞬の旅先での自省など、ロドニーには分からない事ですし、自分や子供達が悲惨だったのを彼女に理解しろと言っても、聞きますまい。ならば、自分も子供も彼女を大事にしているふりをしてやり過ごす、と彼は決めたのかもしれません。復讐です。 |
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