■行人を読み終えたのですが、草枕の頃と変わったなと思います。草枕の画工は、那美さんのヌードを見たり、着飾った那美さんを見つめたり、夫の出征を悲しそうに見送る那美さんに他人事の様に感動したりと、実に気儘です。
明暗になると、今までと同じように姦通がテーマの一つでありながら、不倫相手になるべき清子は実に素っ気ないです。あれこれ津田と清子の別れた理由・姦通するべき理由を漱石は練っていた様ですが、もう那美さんに向けた様な憧憬の思いは沸いてこなかったのではと思います。
■群馬県民ですが、昔家で読売新聞を取っていて、一時期毎朝読売を読んでいました。歴史のある新聞ですし、読売という名に恥じない、独特の講談的な口調が好きです。
幼い頃、読売新聞の人生案内を毎朝読んでいました。子供が読むものではなかったのかもしれませんが、その頃お姉さんの様に思えた中高生でも、「学校で友達が出来ない」と、赤裸々に悩みを新聞に訴え、有識者からお返事をもらうのだという事にひどく安堵しました。
確か有識者からのお返事は。「友達は多ければいいというものではない。気の合う人をゆっくり見つけよう。」だったと思います。
過去読んだ中で印象的な悩みは。「仕事一途で、毎日充実しているけれども、人間関係が事務的になってしまい悲しい」という働く女性からのものでした。アンサーは「女性が仕事一途になれるなんて素晴らしい。有能であるなら貴女を頼みにする人もあるだろうし、趣味をしても打ち込むタイプなら仲間が出来るのも遠くない」とかだったと思います。
女性は可愛く愛想があって、お友達がいっぱいいて、仕事や勉強なんてしなくていいから、彼氏を見つけて、お嫁さんになって早々にママになるべし、という古典的な女性像が当時の自分の周りには濃かったので、読売新聞の人生案内を救いの様に読んだ時もあります。
ただ。
・実父が退職して、毎日家で自分と母に対して暴れて困る。
という悩みに。「お母様はお父様のあしらい方は十分理解されているはず。貴方は家から出て一人暮らしをし、実家と距離を置いてみると、見えて来るものや、新たに自分の出来る事が見つかるはず」というアンサーがありました。
実に万能なアンサーなのですが。一人暮らしをしようとも何だろうとも、実父が退職して暇とお金を持て余し、かよわい母や卑属である「自分」へ、アホらしい権力を振るいたがるという構造は変わらないでしょう。
本当に悩んでいるのは父の暴れぶりではなく。そんな父が許せない苦しみなのかなと思います。確かに、どういう方法でも、「距離を置こう」というのはいいなと思うので、いい人生案内を読んだなと思いました。 |
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