■職場一年目くらいで先輩に言われたのが、「貴方の代わりはいくらでもいる、何なら自動販売機でも出来る」という事でした。仕事のアウトソーシング化、機械化、自動化は昨今の流れでもありますが、言われた時はものすごくショックでした。
もっとショックだったのは、返す言葉がない事でした。先輩は、他のもっと賢く明るい新人職員の方を気に入っていて、雑談とかして楽しそうでした。私には「皆と仲良くして」と言いながら、「でもアタシには近寄らないで」という感じでした。竹淵の代わり云々と言うより、私が隣席にいるくらいなら、信楽焼きの狸でも置いてあった方が有難いとでも言いたそうでした。
先輩の事は置いておくにしても。「かけがえのない」とか思ってもらえる展開は、(私には)天文学的確率なんだろうなと思いました。学生の時のクラス替え、大人になって就活、就職、春の異動シーズン、と私の代わりと言うより、はるかに上等な人達があふれんばかりに押し寄せます。
鉄道には「かけがえがない」という発想は薄いのかなと思います。三宮から梅田に行く方法は、何通りもあります。乗る路線、乗る車両も、いちいちこだわってはいられません。輸送と言う大切な役割をになっていても、「かけがえがない」なんて、あまり思われない鉄道が好きです。どんな廃線・廃駅にも愛してくれる人、忘れないでいてくれる人がいる点も好きです。
■続明暗をパラパラ拾い読みしました。一行一行噛みしめるように読みたいのですが、漱石が書いたのではないとしても、津田と延の先々が気になります。
あの津田が、夫婦愛に目覚めるとは思えないのですが、やはり延に冷淡なままの様です。炎の如き女、延は変らず辛いままの様です。津田と言う男を自身のキャンパスにして、愛される幸福な妻になろうと決めた彼女ですから。
明暗は、登場人物が皆「相手を変えてやる」意識が強いと思います。津田は清子に「愛している」と言わせたいのだろうし、延は津田に「愛している」と言わせたいのでしょう。吉川夫人は延に「私が恋愛結婚なんて不相応な事をして、皆に申し訳なかったのです」と言わせたいのだろうと思います。
比較的客観的立場にいる、津田の妹の秀も、「兄夫婦の不道徳をこの私が示し、2人を私の前に跪かせてやる」と決めています。岡本にしても「延を幸せな妻でいさせてやりたい」と細々と気を遣い、結局、津田夫婦の破たんを先延ばしし、延の苦しみを長引かせています。
他人と過去は変えられない、変えられるのは自分と未来だけと言いますが。誰も他人に譲らない明暗は、まとまりそうにありません。この泥沼から颯爽と逃げた清子が正解だったと思います。資力と決断力に欠け、嘘つきでいい加減な津田の特性プラス、津田が吉川夫人の可愛いツバメであっては、結婚も婚約もあったものではありません。
何かと白黒をつけたがるだろう漱石にして、明暗はどうしたかと思いますが。漱石の大好きなものが、「清らかな全くなる他家の処女」「金持ちで余裕のある人妻」だから、津田が延を無視して、清子や吉川夫人の方へ色目を使うのが止められないのでしょう。自分の妻、自分の家族を、漱石ほど憎しみ続けた男はいないと思います。 |
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