■漱石と鏡子さんについて。漱石が明治大正の事としても、子沢山なので「夫婦仲は悪くなかった」「短気な漱石を鏡子さんが何とかあやしていた」「漱石にはやはり鏡子さん」等、いい感じに書かれる場合が多い様です。
しかし先日。「愛も思いやりもない夫婦。漱石の癇癪と、鏡子夫人のヒステリーが極限までぶつかり、毎日の衝突では収まらなくなった時、やっと床を一緒にするという解決策?に行きつき、結句、愛の無さが変わるはずはなく、まさに地獄絵図」という解釈をさる本で読みました。
人の夫婦関係なんでハッキリ分かるものだろうかと思います。世の男性(主に私の父)は、子供を生ませて、飯を食わせて、一軒家に皆?で住めば、それ以上の希望は愚かというかもしれません。たった一人の男のために、苦しまざるを得ない女子供の事は、男サイドには永遠に分かりません。
漱石は、英国から鏡子さんにラブレター?を送った事が知られています。鏡子さんは手紙も写真も漱石には多くは送らず、漱石は英国で怒り狂っていたらしいですが、金もなく、余りに常人と異なる男に嫁いだ鏡子さんの悪戦苦闘を思えば、漱石の苦悶なんて小さい事かもしれません。あと当時の婦人に、外国郵便を送るノウハウなんてなかったのでは。
■こりずに宮尾作品を読んでいます。カルチャー的な語りの部分は素晴らしいのに、どんどん読んでいくと、昼ドラみたいなドロドロしたものが出て来ます。
今までも、酒造、織物、歌舞伎等、何かのジャンルをテーマにした小説を読みましたが、最後はドロドロでした。どんな高尚なカルチャー的部分を書いても、また精緻な時代物を書いても、最後は男と女、女と女の殺し合いの様な泥沼でした。
まだ何冊か宮尾作品を読もうと思いますが、多分ドロドロだと思います。むしろ、この「可憐な乙女」「仕事熱心な男」がドロリとしていくのか見物する勢いです。短編でも容赦なく、嫉妬、暴力、だまし合い、詐欺等が続くので、作家に小説的な技量が高いと言う事なのだろうと思います。
ならご高尚なカルチャー部分を入れないで、男と女、女と女のつぶし合いを書けばいいじゃないと思いきや。もともと、作家の実家が高知で芸者さんの紹介業を営んでいて、その辺の嫌悪や葛藤、思い等が昇華されて数々の作品が生まれているため、何を書いても単なるメロドラマには負われないのでしょう。
今読んでいる作品は、徳川秀忠の娘の和子の話です。秀忠と言えば、お江に対し嫁さん孝行な男らしいですが、秀忠のお手付きの侍女が、殺される場面が劇中にあって、そうやってお江の政権が出来上がったのだと、創作かどうか分かりませんが思いました。
先日読んだのは、「一弦の琴」でした。漱石の猫に、二弦琴のお師匠さんというのが出て来ます。琴にも種類があるのだなと思いました。ヒロインはさる琴の名手の弟子になります。ストイックでダンディーな師匠にヒロインは初恋をし、後々まで、「師匠への恋=琴への情熱」と尾を引きます。
その師匠、貧乏な暮らしながら女中と二人暮らしです。読んですぐに、自分は「ヒロインのお師匠と女中さんは男と女の関係だ」と思いました。宮尾作品の定番の展開です。若かったヒロインは女中が師匠の子供を身ごもった事で精神の平静を失います。しかし内向する性格で、怒りや悲しみが体調不良になるだけで、籠もっていました。
ヒロインの我慢強さがたびたび劇中で強調されますが、結局、その怒りと憎しみが、弟子の蘭子に行きました。お高い蘭子目線の部分の方が、喜怒哀楽に激しくて楽しく読めました。前半部分で苗の心情等の語りが、「〜だったと思われる」「〜であったろうか」と作家の語りのはずなのに推測や憶測が多く、ちょっと歯がゆくなりました。 |
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