■おもひでぽろぽろには、「過去」のエピソードが多いです。「過去」の人達は一切「過去」パートにしか出て来ません。27歳のタエ子にマウントされるために、あの「過去」の描写が続くだけのような気がしました。「あたし立派になったわ、もう大人なのよ」と。
漱石の道草も「過去」の多い小説です。健三が「過去」に、「現在」の自分を押しつぶされそうになる話とも言えます。何とか健三は「過去」を振り切りますが、大部分は門の宗助の様に煮え切らないままです。自分は道草や門の方に、共感を抱きます。
■少し前、織田作の小説を読めるだけ読んだのですが。どうも分からないのは、登場人物達の転職の多さです。夫婦善哉も、大阪で出来る仕事は全部するつもりなのかと思うくらい、滅茶苦茶に転職しています。
今のように会社から会社に転職するのではなく、一回一回、自営業として店舗を持つなりの借金をしてからの商売替えです。夫婦善哉の場合、彼等の「仕事」がヒットする時もあるのですが、蝶子の芸者業の収入が基本的にあります。
生活が苦しいのなら一か所で、一個の仕事に就いた方がいいんじゃないだろうかと思いますが、他の織田作の小説の人物達も転職に継ぐ転職をします。その方がいいと人物達が思うのでいいのでしょう。「会社」なんてものが永続するとは誰にも言えないのですし。
■先日書いた日誌で、おもひでぽろぽろのトシオの名前を間違って書いていたので訂正しました。そのうちちゃんと映画を見直そうと思います。
何というか、自分はタエ子のような女性ではないので、感情移入しきれないんだろうなと思います(あなたは普通じゃないなんて、眼前で私はもう100万回言われている)。価値観は人それぞれと言いますが、タエ子の周りにはいつでも彼女を幸せにしようとスタンバイしている男性がいます。彼女はただの、「女になる」事のモラトリアムなだけでしょう。
・実父 しつけは厳しいが、末娘を溺愛 ・広田 タエ子に片思いする、さわやかスポーツマン ・あべくん 色々難のある子だったけれど、トータルで見ると彼に一番のびしろを感じる
・ふられたお見合い相手 お見合い相手の方は、タエ子と結婚するつもりだったらしい ・会社の上司 10日間の休みなんて、マジでくれるのか
・トシオ タエ子の浅薄さを見ても尚、優しく見守って、ラブコールしてくれる ・山形の人達 こんな迷惑な都会っこを前にして、微笑みを絶やさない 農繁期にはタエ子が邪魔になりそう
自分はあべくんの様に、クラスメイトから手を握ってもらえない子でした。隣の席に座るのもイヤ、私が触ったプリントを触るのもイヤ、フォークダンスなんてもっとイヤ、と義務教育中は私はあべくんと同じでした。
自分の家は親が公務員で、小さい頃は農家の収入もあり裕福な家でした。しかし諸事情で母に余り構われず育ち、気がつけば汚らしいニキビデブになっていました。体臭も体質的にきつく、あべくん同様でした。「自分が皆に嫌われている」自覚は十分にあったので、恐怖で髪や顔、体を触る癖を発症し、ますます不潔な子になりました。
私があべくんだったら、教員が「握手しなさい」と言ったら、殺したい相手とも義務感で握手しまくったでしょう。そうやって何でも目上の言いなりになるのが最も社会的に生き残りやすいからですが、あべくんは若干の私情を優先し、おぼろげな「恋」をタエ子にし、彼女の心に長く居続けた点において、竹淵より素晴らしい幼年期だったと思います。
少女漫画だったら、タエ子が成人して27歳で「行き遅れ」た時、イケメンで金持ちになったあべくんが出て来そうです。 |
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