■小説の書かれていない事って結構あると思います。漱石の三四郎だと、美禰子と野々宮さんがどれくらいの仲だったのかとか。
女性にリボンを贈る仲なのだから、野々宮と美禰子は親しいと言えそうです。しかし美禰子は、三四郎が適当に選んだ香水を見につけたり、三四郎に少なくないお金を貸しています。
美禰子は誰と結ばれるのか?は三四郎の美味しい部分ですが、リボンだの香水だの現ナマだのより、もっと美禰子に必要なものがあったと思います。「責任を取ってくれる男」です。美禰子をハイカラがるだけの三四郎や、学生っぽい野々宮では、美禰子の力にはなれなかったと思います。
以下、丁度読んだミスマープルへの雑感です。
・ミスマープルは私のアイドルだった。
・未婚と言うのが最高にいい。偏屈で彼女が未婚なのではなく、当時の英国の事情など考えると、未婚女性と言うのは左程おかしなものではない。
日本みたいに、「20代で結婚して、出産しないと人間じゃない」とかいう思想は、マープルの周りにはなかったと思う。なんで日本はみんな、「産めよ増やせよ」という戦中期のノリのままなんだ。
・小学校の図書館にマープルものがあったのが、ファーストコンタクトだった。甥のレイモンドを余裕で追い抜く知性、優雅な態度に憧れた。
・当時私はいじめられていて。主に、クラスの男子から存在を拒まれていた。私が触ったプリントとか、本当にゴミみたいに男子達が嫌がっていた。
そんななか、男に頼ることなく、ごく自然に自分の知性で輝くミスマープルに出会った。いいじゃないか、こんな老嬢になろうと、まだ生理前なのに思った。
さて振り返ると。ミスマープルは無職だった。ホームズもメグレも仕事として推理するのに、彼女は堂々無職だ。彼女の父親は、彼女の結婚を反対しただけでなく、「結婚しなくても一生暮らせる財産」を残したらしい。いいお父さんだ。
当時の英国の一定の階級以上なら、不労所得で一生働かないのは珍しくないのかもしれない。日本じゃ考えられない。日本のおばあさんは、永遠に「川で洗濯」だろう。ムスメにそんな大金残すお父さんなんて、日本にいるのか。
そう、日本にはそんなお父さんはいない。無職で、一人暮らしで未婚で、使用人や庭師に囲まれて、編物をして暮らす様なおばあさんに、私はなれない。私のお父さんはそんな事をムスメにさせる男じゃない。
毎日働いているけど、ミスマープルの様に、高級ホテルやリゾートに一月近く滞在する暮らしは、私には無理だ。知性だの人間観察だのの前に必要なのは、カネだ。鉄道を好きになって、オリエント急行に乗るにはいくらかかるのか、またはJR九州のななつ星に乗るには?とリアルに考えた時、やっと自分の貧しさが分かった。
ななつ星ではドレスコードがあって。きちんとした格好で食事をしないといけない。普通にきちんとすればいいのだけど、そもそも「食事のために着替える」発想が自分にはない。旅行で御飯と言えば、私は浴衣だ。
ミスマープルの場合も、滞在先のリゾートで「食事のためのお着替え」を行う。彼女の周囲の男女も「夕食のための着替え」を行う。着替える理由は、野良仕事で汚れたからではない。自分はミスマープルにはなれないと思った。彼女は金持ちだった。 |
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